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ペコちゃん ~みんなに愛される不二家のアイドル~

著: ニコチアーナ・フブキ
編: 桜城蘭

目次

ペコちゃん ~みんなに愛される不二家のアイドル~

はじめに

 洋菓子を扱う食品メーカーである「不二家」のマスコットキャラ『ペコちゃん』のことを知らないという方は居ないのではないでしょうか。株式会社日本リサーチセンターが実施したご当地キャラ、企業キャラの知名度アンケートでは、ペコちゃんとそのボーイフレンドであるポコちゃんが見事1位に輝きました。1 不二家の店舗前に置かれているペコちゃん人形は、今も昔も道行く人の心を摑んで離しません。

 ペコちゃんは、戦後間もない1950年(昭和25年)に誕生しました。2誕生から70年以上、現在でも不二家のアイドルとして人々に愛されるペコちゃんは、一体どんな経緯で世に出てきたのでしょうか?

 当館にも数多くの関連商品が展示されているペコちゃんについて、紹介していきたいと思います。

ペコちゃんグッズコレクション①(出典:B宝館)

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不二家について

 ペコちゃんがマスコットキャラクターを務める株式会社不二家は、1910年(明治43年)、藤井林右衛門によって創業されました。同年には、不二家は日本初のクリスマスケーキ販売を開始しています。3

 藤井は愛知県生まれで、10代半ばより横浜で働いていました。25歳の誕生日に横浜・元町に不二家を開業し、自らお菓子作り、店頭での呼び込み、材料の買い出し、配達をこなすなど、目まぐるしく動いたそうです。ただ、幕末以来のグローバル・シティである横浜でも洋菓子は余りに突飛な存在であり、売上が芳しくない日々が続きます。
 開店から2年が経った1912年(明治45年)、兼ねてより欧米の製菓、喫茶事情に興味を持っていた藤井は、意を決して渡米します。そこで藤井は、洋菓子が一流の立地、そしてお洒落な店舗で売られていることを知ります。
 帰国した藤井は早速不二家の改革に着手します。近代的なキャッシュレジスターを導入し、また元町店の隣に「ソーダ・ファウンテン」と名付けた喫茶店を増設しました。しばらくすると外国人だけではなく、日本人の客も増加しました。1922年(大正11年)には横浜・伊勢佐木町に2号店をオープンします。その後はシュークリームや藤井考案の「ショートケーキ」が話題を博し、日本に洋菓子文化を根付かせた、名門の製菓メーカーとなりました。4
 ちなみにショートケーキは、藤井が渡米した際に目にした、’スコーンのようにサクサクしたビスケット生地と生クリーム、イチゴを重ねた’菓子を参考に、日本人好みに改良したものです。今では当たり前の存在となっているショートケーキも、不二家と藤井林右衛門がいなければこの世に出ることはありませんでした。5

 社名の『不二家』は、創業家の名字である藤井の‘’、日本の象徴である富士山の‘富士’、そして「二つとして無い存在(不二)」の‘不二’から取られています。また不二家と言うと、Fの字がデザインされたシンボルマークも有名ですよね。あのシンボルマークは『ファミリーマーク』と呼ばれ、不二家の頭文字の他に、

  • ファミリア(親しみやすい)
  • フラワー(花)
  • ファンタジー(夢)
  • フレッシュ(新鮮)
  • ファンシー(高級な、かわいらしい)

の5つの意味が込められています。6

 ちなみに『ファミリーマーク』のデザインを手がけたのは、煙草の『ピース』のデザインも手がけた工業デザインの祖、レイモンド・ローウィです。7(ローウィが『ピース』をデザインした経緯については、当館のFacebookページをご覧ください8
 戦後、日本全国に不二家の商品が展開される中で、他社との差別化を図るために特徴的なロゴを作ろうとの話が持ち上がりました。折角なので一流のデザイナーに依頼しようということになり、そこで白羽の矢が立ったのが、世界的に有名だったローウィでした。9
 またローウィは、1962年(昭和37年)に発売され、今なお不二家の主力商品である「ルックチョコレート」の初代パッケージもデザインしています。
薄黄色の背景に、発売当初のフレーバーであったコーヒー、苺、バナナ、キャラメルが描かれ、シンプルな字体で商品名である『LOOK』が印字されています。単純なデザインながら、フレーバーの種類が分かりやすく、商品名が読みやすく覚えやすい配慮がされているのは、正にローウィの真骨頂と言えるでしょう。1011

不二家数寄屋橋店(出典:photoAC)

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ペコちゃん誕生

 そして戦後間もない1950年(昭和25年)にペコちゃんが誕生します。日劇(日本劇場)で活動していた舞踏集団、日劇ダンシングチームによるシェイクスピア作『真夏の夜の夢』の公演を観ていた不二家の社員が、張り子の動物たちがたくさん登場するシーンを見て、一つのアイデアを思いつきます。

「張り子の人形を店舗前に置けば、道行く人の目を引くのではないか……」

 こうして不二家の銀座6丁目店に、ペコちゃん人形の第一号が設置されました。この人形を作ったのは、日劇の大道具係の職人とされています。ゆらゆらと動く頭と愛らしいデザインから、子供たちが思わず抱き着くほどの人気者となりました。12

 最初期のペコちゃん人形は紙を張り合わせた張り子人形であったため、雨風や人々に触られていくうちに傷んでしまいます。傷んだペコちゃん人形はすぐさまリアカーに乗せられ、不二家の人形課社員五によって修復された後、再び店舗前に設置されていたそうです。(傷んだ部分をその都度張り替えた結果、少しずつペコちゃんの顔が変わっていったとか……)1950年代後半にはプラスチック製になったことで耐久度が強くなり、現在でも続くペコちゃん人形の原型が出来上がりました。1314

 ところで、ペコちゃんが初めてお披露目された頃の銀座は激動の時を迎えていました。また高速道路を通っておらず、戦後残された瓦礫処理の埋め立てのため、1949年(昭和24年)には中央通りと昭和通りの間を流れていた三十間堀川が姿を消すなど、景観が大きく変わり始めていた時期でもありました。1950年代の数寄屋橋には森永ミルクキャラメルの地球儀型ネオン広告塔やソニーのネオン広告塔が登場し、1960年代にかけて東京オリンピック開催に合わせた大規模なインフラ整備が行われる中、ペコちゃんは登場したわけですね。1516

 他方、写真家田沼武能の作品に「ペコちゃん人形のもつミルキー箱を狙う戦争孤児、銀座」という作品があり、これは表題の通り、風雨にさらされたペコちゃん人形の腕にかかる、空のミルキー箱をじっと見つめる戦争孤児の少年を収めた写真で、食糧難であったこの時代の雰囲気が表現されています。
 復興しつつある東京の二面性を持つ銀座は、その後時代時代によって大きくその姿を変えていきます。1950年代~1960年代の絵葉書を見ると、数寄屋橋界隈と不二家の店舗の変遷がよく分かります。17

張り子の虎(出典:photoAC)

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様々なペコちゃん

 こうして店頭デビューを飾り瞬く間に人気を博したペコちゃんは、誕生の翌年、1951年(昭和26年)にミルキーのパッケージに登場したのを皮切りに、不二家の看板やエプロン、商品パッケージや広告など、様々な媒体に顔を出すようになりました。18

 興味深いのは、媒体ごとにペコちゃんの顔が異なっている点です。くりくり目に舌をぺろりと出している、リボンのおさげの女の子であることは一緒であるものの、その他の要素と画風については様々なテイストのものがありました。また全般的に目が多少釣り上がっているものが多く、またキャラクター付けに外国の女の子を参考にしていたことから、瞳が青色のペコちゃんもいました。
 実は不二家社内でペコちゃんに関するマニュアルが作られたのは1980年代であり、誕生してしばらくは統一された設定や表情、ポーズがありませんでした。ペコちゃんの年齢が6歳と定められるまで(後述参照)は大人びたものから子供っぽいもの、中にはヨチヨチ歩きの赤ちゃんバージョン(!)まで多種多様なペコちゃんがあり、過渡期ゆえの面白さがあります。1920

 ペコちゃんの定番服であるオーバーオールも、1960年代前半頃までは現行のものと異なっていました。当時のペコちゃん人形には、右足のすそ部分に‘ペコちゃん’の文字が書かれ、胸元に不二家の企業マークであるFマークが付いたものが多くありました。ラインも今と比べると太めでダボついたものでしたが、1970年代に入るとスリムになっていきます。ちなみにオーバーオールの肩紐は、背中でX字に交差していると思われがちですが、実はV字になっています。21

 今でも店頭用のペコちゃん人形が季節や行事ごとの服を着こなしていますが、ペコちゃんがファッショナブルなのは誕生当初からでした。当時のペコちゃん人形は、着せ替えは勿論、服のデザインや縫製なども、全て不二家人形課のスタッフが行っていましたそうです。
 季節感だけではなく時代を反映するような意匠も取り入れており、1958年(昭和33年)に皇太子殿下(現・上皇陛下)と正田美智子さん(現・上皇后陛下)の婚約が発表されたことで起きたミッチー・ブームを受け、両陛下の出会いのきっかけでもあったテニスのウェアに身を包んだこともあります。22また2010年(平成22年)には不二家創業100周年、ペコちゃん生誕60年を記念して、店頭展示用のペコちゃん人形に京都西陣織の着物が作られました。23

西陣織(出典:photoAC)

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ペコちゃんとポコちゃん、Dog、そして新たなキャラクターたち

 ペコちゃんとボーイフレンドであるポコちゃんは、それぞれ「永遠の6歳」、「永遠の7歳」とされています。また名前の由来は、ペコちゃんの方は仔牛を意味する‘べこ’、ポコちゃんは幼児を現す室町時代の古語、‘ぼこ’から取られています。24

 ちなみにペコちゃんの年齢設定は、1958年(昭和33年)に実施されたキャンペーン「ペコちゃんいくつ?」によって決まりました。このキャンペーンの景品はなんと日野自動車がライセンス生産していた『ルノー4CV』!
 知名度抜群のペコちゃんと驚愕の景品の効果で、応募総数は総数166万通にものぼったそうです。25

 ペコちゃんのボーイフレンドであるポコちゃんが誕生したのは、1951年(昭和26年)のことでした。ペコちゃんが誕生した翌年であり、また不二家の「ミルキー」が誕生した年でもありました。26ペコちゃん、ポコちゃんのお友達であるDogが誕生したのは1995年(平成7年)なので、不二家のマスコットキャラクターはペコちゃん、ポコちゃんのみが40年以上務めていたことになります。27

 ただ何と、2015年(平成27年)には30年ぶりの新キャラクターである「ペコラ」と「キャット」が登場しました。魔法のミルキーで鮮烈な登場を果たしたペコラは、ピンクのボブヘア、パープルの大きなリボンとオーバーオール、そして小悪魔的な尻尾が特徴的な見た目であり、ペコちゃんを少女漫画チックにしたような顔立ちをしています。ペコラと仲良しの仔猫であるキャットは黒猫であり、全体的に魔女を彷彿とさせるキャラクターたちになっています。また2016年(平成28年)にはペコちゃんのお友達であるメスの仔猫、「ラブリーキャティ」も登場しました。 魔法の国出身であるペコラは‘ペコちゃんのライバル’という位置付けであり、今後どのような展開を見せていくのか、期待が高まります。28

ルノーの自動車(出典:photoAC)

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様々な関連商品

 ペコちゃんは店舗前に佇むペコちゃん人形のみならず、様々な関連商品が生み出されてきました。当館に所蔵されている展示品を参照しつつ、その一部を紹介していきます。

ペコちゃんグッズコレクション②(出典:B宝館)
ペコちゃん&あっちゃんコラボ記念人形

 上段左にあるのは、2013年(平成25年)に不二家のイメージキャラクターに就任した元AKB48の前田敦子さんとのコラボ商品である『ペコちゃん&あっちゃんコラボ記念人形』です。クラシックなアイドル衣装に身を包んだペコちゃんと前田敦子さんが何ともかわいらしくデザインされた逸品となっております。

不二家100周年&ペコちゃん生誕60周年記念ピンズ、人形

 上段奥に見えるピンズと上段右手前にあるペコちゃん、ポコちゃん、そして仔犬のDogの人形は、不二家100周年およびペコちゃん生誕60周年を記念して作成されたものです。シリアルナンバーが刻印された希少品です。29

ペコポコこけし

 一際目を引くのは、中段手前にあるこけしです。これは『ペコポコこけし』と言い、ハイカップと呼ばれる乳酸菌飲料の瓶や、手提げミルキーの箱にぶら下げられるおまけとして製造されました。日本の伝統品であるこけしにペコちゃん、ポコちゃんの特徴がよく落とし込まれています。こけしは一体一体こけし職人の手で作られており、手作りが故にそれぞれ微妙に造形が異なっている点が温かみを感じますね。30

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最後に

 ペコちゃんについて取り上げましたが、いかがでしたでしょうか。今も昔も不二家を象徴するキャラクターとして愛され続けるペコちゃんは、ペコちゃん人形のみならず様々な商品が生み出されてきました。当館には先ほど取り上げた展示品の他にも、色々なペコちゃん関連グッズがございます。是非一度、ご自身の目でご覧になってください。



脚注
  1. 第8回 NRC全国キャラクター調査 ↩︎
  2. 『ペコちゃんスタイル』p.10 ↩︎
  3. 不二家|Wikipedia ↩︎
  4. 藤井林右衛門の想い|会社案内|会社・IR情報|株式会社不二家 ↩︎
  5. 毎月22日は「いちごショートの日」 | 有限会社セーフティ ↩︎
  6. 不二家|Wikipedia ↩︎
  7. 『ペコちゃんスタイル』p.85~87 ↩︎
  8. 1月13日はたばこの日です | B宝館公式Facebookページ ↩︎
  9. 『ペコちゃんスタイル』p.84 ↩︎
  10. 『ペコちゃんスタイル』p.84 ↩︎
  11. ルックチョコレート – Wikipedia ↩︎
  12. 『ペコちゃんスタイル』p.10 ↩︎
  13. ペコちゃんの歴史|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  14. 『ペコちゃんスタイル』p.24 ↩︎
  15. 銀座 – Wikipedia ↩︎
  16. 『ペコちゃんスタイル』p.16~21 ↩︎
  17. 『ペコちゃんスタイル』p.5、12 ↩︎
  18. 『ペコちゃんスタイル』p.22 ↩︎
  19. 『ペコちゃんスタイル』p.22 ↩︎
  20. ペコちゃんの歴史|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  21. ペコちゃんの歴史|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  22. ペコちゃんの歴史|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  23. 『ペコちゃんスタイル』p.66 ↩︎
  24. 『ペコちゃんスタイル』p.8 ↩︎
  25. 『ペコちゃんスタイル』p.50 ↩︎
  26. 『ペコちゃんスタイル』p.83 ↩︎
  27. プロフィール|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  28. プロフィール|ペコちゃんの部屋|株式会社不二家 ↩︎
  29. 『ペコちゃんスタイル』p.37 ↩︎
  30. 『ペコちゃんスタイル』p.34 ↩︎
参考文献

・不二家(2015) . 『ペコちゃんスタイル』 . 求龍堂 , p.174 .


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