コレクションコラム vol.8［テーマ：コアラのマーチ①］

  著: ニコチアーナ・フブキ
  編: 桜城蘭

コアラのマーチ ～さくさくビスケにしっとりチョコ、食感のパレードお菓子～

はじめに

　菓子メーカー、株式会社ロッテから販売されているチョコレート菓子『コアラのマーチ』は、1984年（昭和59年）の販売開始¹から、今年で40周年²を迎えます。

　ビスケットにプリントされたコアラの絵柄は実に700種類を超え³、その多様なバリエーションで私たちを楽しませてくれます。

　今回は『コアラのマーチ』の歴史と、関連する展示品についてご紹介します。

「コアラのマーチ」誕生前夜

　1983年（昭和58年）頃、ロッテは空洞型のビスケットにチョコレートを注入する技術を確立します。⁴⁵この技術には、開発陣の様々なこだわりが込められています。

　サクサクとした食感と、ビスケット生地の耐久性の両立がその一つです。注射針上の器具を用いてチョコを下面（コアラがプリントされていない面）から注入するにあたり、下面は割れないように厚く、上面は食感を損なわないように薄くビスケットを焼き上げることで、この課題をクリアします。　

　上面を薄くし過ぎるとチョコが生地から染み出てしまう恐れがあり、開発陣は適切な厚さを模索しました。ただ商品開発用の小規模なオーブンと違い、業務用の巨大なオーブンは配置場所によって火の回りにムラがある上、ビスケット生地もその日の温度や湿度に影響されやすいこともあり、開発は難航を極めます。開発陣は数えきれない程の試作を重ねて、ようやく食感と耐久性を両立させる厚さを見出せたようです。⁶

　製造技術は確立したものの、この時点ではまだ新商品のコンセプトや名称は決まっていませんでした。そんな折、ロッテは独自ルートから、とある情報をキャッチします。⁷

「コアラのマーチ」誕生

　ロッテが摑んだ‘とある情報’とは、1984年（昭和59年）10月に、オーストラリアから日本に対してコアラが贈られるというものでした。コアラ来日の報を事前にキャッチした開発陣は、「1972年（昭和47年）のパンダ初来日と同様、一大ブームが来る」と考え、新商品にコアラのキャラクターを用いることを決定します。⁸⁹

　ただコアラは一日の大半を木の上で過ごす動物であり、そのままデザインしても、お菓子のキャラクターとしての楽しさが伝わりません。そこで開発陣は、コアラにマーチングバンドを組ませて、明るく楽しい雰囲気を演出することにします。（初代のコアラ絵柄12種類の内、約半分が楽器を持っているのは、前述の経緯があるため）
　またパッケージには、コアラの主食であるユーカリの葉を意識した六角形上の箱を採用し、画一的なパッケージが多かった当時のチョコレート菓子の中で、一際目を引くデザインとなりました。
　こうして、『コアラのマーチ』が誕生しました。¹⁰¹¹

「コアラのマーチ」の絵柄

　『コアラのマーチ』は、販売開始から現在に至るまで、実に700種類以上の絵柄が生み出されてきました。¹²絵柄は基本的に365種類を定数として、一定の期間で入れ替わりが行われています。¹³絵柄は、デザイナーとブランド担当者が時事や流行を踏まえて作成しており、技術の移り変わり（例：ポケベル、有線タイプの音楽プレーヤー）によって時代にそぐわなくなってしまった絵柄のコアラは、‘オーストラリアの森に帰ってもらう’形で、卒業していきます。¹⁴

　販売開始からしばらくは、特にロッテとしてキャラクター戦略などは取らない状況が続きましたが、1988年（昭和63年）頃から、女子高生を中心に、とある都市伝説が流れます。「眉毛のあるコアラを見つけると、幸せになる」───初代絵柄の一つである「ラッパを吹いているコアラ」の顔にある皺が、眉毛のように見えることで生じたものでした。当時は眉毛がある（ように見える）絵柄が他になかったので、自然発生的に希少価値が生まれたのです。
　その他にも、お腹をケガしたコアラが「盲腸コアラ」として、唇の両脇から伸びる皺が鼻血に見えるコアラが「鼻血コアラ」として人気を博すようになりました。ロッテは消費者のリアクションからコアラのキャラクターに商品価値があることに気づき、以来絵柄の種類を増やす方向に舵を切り、現在に至っています。¹⁵¹⁶

展示品紹介

　コアラのマーチは、様々なバリエーションと関連商品があります。ここでは当館に所蔵されている展示品の一部を紹介していきます。

最後に

　コアラのマーチについて取り上げましたが、いかがでしたでしょうか。数百種に及ぶ絵柄、様々なフレーバー、タイアップ商品、コラボ商品など、時代の変化に即して、私たちを楽しませてくれます。

　当館には先ほど取り上げた展示品の他にも、コアラのマーチ関連の展示品があります。是非一度、ご自身の目でご覧になってください。

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